言わねばよかったと後悔することが千遍あるのに対して、言えばよかったと後悔することは一度あるかないかである。
『文読む月日』ちくま文庫 レフ・トルストイ 作 北御門二郎 訳
いつの時代のどんな人々にも心当たりがある箴言ですよね。口は災いの元と言いますし、沈黙は金という言葉もあります。
とはいえ、雄弁家がポリスを動かしたり預言者が説法して回って世界宗教に発展したり言葉に力がある事も事実でしょう。
このトルストイの言葉については、2つの文脈が前提になっていると考えられます。
一つは、身近な人間関係においての卑近な場合を想定しているという事です。帝政ロシアの貴族社会の人間ですから、社交界などの人間関係において余計なは事言わないがよいという実感があるのでしょうね。小説の中に描かれる貴族社会にも喋り好きは愚かな方に描かれる事が多いと思います。
もう一つは、自分の精神世界へ沈潜していく事を神聖視しているという事です。精神的な成長と実生活での実践を信仰の命題としているので、社会的交流を目的としたおしゃべりは取るに足らない児戯くらいの捉え方をしているように見えます。そんな事よりも内的反省や祈りを通して自己の中の神を意識するという事に価値があるというスタンスですね。
我々にとっても、ある程度生きていれば一つ目の文脈はとても共感できるもので、人間いつの時代も変わらないんだなとほっこり?がっかり?する様な気分ですね。
身近で共感できる言葉でも、信仰、宗教観という文脈も推し量って語れるのがトルストイの魅力ではないでしょうか。
コメント