賢者は、死についてよりもより多く生について思うものである。
『文読む月日』ちくま文庫 レフ・トルストイ 作 北御門二郎 訳
実生活を差し置いて哲学や宗教について考えるときは大抵なぜ生きるのか、どう生きるのか、生と死みたいなことを考えがちですから、やはり生存の確信を求めている本能があって、それを理性が補強しようとして悩むんでしょうね。
生について想うことは即ち死について理解することであり、生と死は表裏一体というのは本書で何度となく出てくる考え方ですが、この箴言では全く別物で、捉え方によっては生について考えることの方が大事だという風に見えます。
それも一面としてあると思いますが、どちらかというと実生活について役立つ考えをしているものであるという実践主義的な理想が含まれているようにも感じます。
トルストイの思想として、善の実践が人生において唯一価値あるものですから、死について考えることも善にたどり着くための一つの道筋という意味では価値あるものかもしれません。
ただ、それよりも実生活で善を実践するための考え、生について思うことの方が遥かに役立つし、価値あるものだという考えのもと賢者はそういうものだという理想像を掲げたのかもしれません。
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