『文読む月日』-3月26日

文学

信仰はいつの時代にも同じであると考えるのは、大きな誤りである。長く生きれば生きるほど、人々の信仰はわかりやすくて、簡潔で、強固なものとなるのだ。信仰がわかりやすく、簡潔で、強固であればあるほど、人々の生活はますます平和な、立派なものとなる。どんな時代にも同一の信仰で間に合うから、それを変えなくていいと考えるのは、ちょうどわれわれが、幼児のころ母親から聞かされたお伽噺しの類を本当のことと思い込んで、いつまでもそれを信じていなければいけないと思うようなものである。

『文読む月日』ちくま文庫 レフ・トルストイ 作 北御門二郎 訳

脈々と受け継がれている規範や精神も、時代に合わせて変わっていくものだという考えですね。
トルストイの時代からみても、時代遅れ(女性の抑圧や奴隷を前提とした考えなど)の考えは時代遅れと感じられたのでしょう。それでも根幹の思想は真理であると思われたので、自分の主義に整合性を持つためには信仰は時代とともに変わっていくという風に宣言してしまったのはよさそうです。

さらに、真理はシンプルで簡潔なものであるという信念のもと、時代を経るにつれもっともっと信仰は簡素に強固になっていくという予感も感じられますね。
これは、真理があるのであればどんな人にも同一に作用するはずだという素朴な感情を勇気づける考えだと思います。
この感情は、自然科学が真理のように感じるゆえんでもありそうです。
人間の本能の中に育った合理性を好む性質が信仰や化学にも影響してこの世の形になっているということが考えられて面白いですね。

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