君が恐れる人も、君を恐れる人も、これを愛することはできない。
『文読む月日』ちくま文庫 レフ・トルストイ 作 北御門二郎 訳
トルストイの生きた時代の世相の一つにナショナリズムがありました。
帝国ロシアはポーランドやベラルーシ、リトアニアなど、多民族から成る帝国でしたので大きな影響があったようです。
それに加えて農奴解放、文字改革など変革の時代でした。
今日のテーマはそんな中で生まれたと思われる、人びとを愛するにはどうすればよいかというものでした。
トルストイ自身、身分階級や国家民族の区別にどこまで抵抗があったのかは分かりませんが、少なくとも愛の前に人びとは平等であると考えていたと理解しています。
特に愛国心については人びとを国家という大きな括りで敵対させる特に害のある迷妄だと考えていたようです。
晩年に日露戦争が勃発し、これに対して批判するため『トルストイ伯日露戦争論』を執筆しています。
ボーア戦争も、イギリスが中国に仕掛けたアヘン戦争も、どんな戦争も残酷であって正当化できるものではなかった、日本もロシアも過去から学ばず、宗教的に間違っているのであって戦争を正当化しようと一生懸命になっている識者たちも正しいことは何一つないと。
ここでも愛国心を利用して国民を残酷な戦場へ送るどころか、心持ちでさえ残酷にしてしまっている様子に言及しています。
愛という言葉は様々な文脈・意味で使われますからその時その時で注意して理解しないといけませんが、トルストイの著作にあっては一貫しています。
人びとを結びつけることが愛、人びとを離反敵対させることは悪、とてもシンプルです。
コメント