悪の誘惑に陥っている人に対して、残酷であってはいけない。自分も人から慰められたいように、君もその人を慰めるようにしなければならない。
『文読む月日』ちくま文庫 レフ・トルストイ 作 北御門二郎 訳
トルストイの作品や発言の中には、人間の欲や迷妄に対する弱さを前提とする話が多くあります。
自身が若いころから放埓な生活をしていたとのことですから、その反省がバネになっているとよく聞きます。
そのためか、そういう弱さに対して同情的、共感的な態度がよく出てきます。
この態度はキリスト教的ともいえますが、自己反省から出ている部分がトルストイの態度を実際的なものに感じさせるのかもしれません。
人の悪に陥っているさまを罰するのではなく、慰める、つまり自分の善性をもって相手の善を再生させるという考え方はトルストイの考える宗教的救いの現実的な実践方法として小説の中でも暗示されていると思います。
また、視点を変えると孔子による「己の欲せざる所は人に施す勿れ」の裏命題とも言え、世界に普遍の道徳的思想とも言えそうです。
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