『文読む月日』-1月20日

文学

われわれが生まれるとき、われわれの霊は肉体という柩の中へ置かれる。しかしこの柩、つまりわれわれの肉体は徐々に滅んでゆき、われわれの霊はますます解放されてゆく。そして肉体が死亡したとき、霊は完全に解放されるのである。(ヘラクレイトスによる)

『文読む月日』ちくま文庫 レフ・トルストイ 作 北御門二郎 訳

ヘラクレイトスは古代ギリシアの哲学者で、物の根源(=アルケー)を火であると考えていました。
燃焼は物質を変化させますし、火は形を持たないけれどもそこにあります。
また、万物流転を唱え、「同じ川には二度と入れない」という言葉を残しました。
川はもちろん人も時々刻々変化しているので同じシチュエーションは発生できないということですね。
世界の秩序は普遍的な理性によって保たれていると考え、その法則をロゴスと呼びました。
物の根源は火で、燃えている物が変化する様がロゴスの具現化というわけですね。

素朴な観察から火が根源と言っているのかなと何となく思っていましたが、観察だけではなく哲学的な思索がおもしろいですね。
世界はロゴスに従った、対立する物の調和によってできているというのがヘラクレイトスの思想の中心をなしているようです。

で、トルストイに戻ってくるのですが、いつもの肉体と霊という二元論と肉体の死が霊の解放であるという捉え方をしています。
ヘラクレイトスがこの二元論で考えていたのかは知りませんが、トルストイはそう解釈したようです。
ただ、この哲学では肉体だけではなく精神も流転しますから、問題はないように思います。

霊が神から分かたれて肉体に入り、死によって神に戻っていくという考えがよく出てきます。
万物流転と重ねてみてみると面白いですね。
どうでもいいですが、火葬に立ち会ったヘラクレイトスが霊と世界の関係を考え込んでいた場面があったのかもな、とか妄想してしまいました。(ちなみに古代ギリシアでは土葬と火葬どちらも選べたみたいです。)

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